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札幌高等裁判所 昭和29年(ネ)6号 判決

控訴人 三ヶ田義夫

右代理人弁護士 佳山良三

被控訴人 日本通運株式会社

右代表者 早川慎一

右代理人弁護士 矢咲幸太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

一、被控訴人の請求原因事実並に抗弁に対する陳述の要旨。

(一)  控訴人は、被控訴人に宛て、昭和二八年六月二〇日

(1)金十万円、満期昭和二八年七月一五日支払地中標別町、支払場所株式会社北海道拓殖銀行中標津支店、振出地計根別なる約束手形一通。

(2)金十万円、満期昭和二八年八月一五日その他の記載要件は(1)と同じ約束手形一通。

(3)金六万二千六百二十八円、満期昭和二八年八月三〇日、その他の記載要件は(1)と同じ約束手形一通。

(4)金三万九千七百九十円、満期昭和二八年九月一五日、その他の記載要件は(1)と同じ約束手形一通。

を振り出し交付し、被控訴人は現にその所持人となつた。そこで、被控訴人は、それぞれ満期に支払場所において、右各手形を呈示してその支払を求めたが拒絶された。よつて、被控訴人は、控訴人に対し、右手形金合計金三十万二千四百十八円及びそれぞれ満期後である前記(1)の手形金に対しては昭和二八年七月一六日より同(2)の手形金に対しては同年八月一六日より、同(3)の手形金に対しては同年一〇月九日より、同(4)の手形金に対しては同年一〇月二四日より各完済に至るまで手形法所定年六分の率による利息の支払を求めるため、本訴に及ぶ。

(二)  控訴人主張の抗弁事実中、被控訴人が控訴人主張のような営業をしていること、被控訴人が控訴人との間にその主張のような馬鈴薯輸送の運送取扱契約をなし、その主張の日、その主張の荷受人に対して控訴人主張の数量の馬鈴薯を各輸送したことは認めるがその余の事実を否認する。

(三)  仮りに控訴人主張のような損害が発生したものとしても、被控訴人は通運事業法第四条により運輸大臣の免許を受けて同法第二条に定める通運事業(他人の需要に応じ自己の名をもつて鉄道による物品運送の取次等をなす事を業とするもの)を営むものであつて、運輸大臣の認可を受けた通運約款に基き貨物の運送を引き受け、その約款に定めるところに従つて責任を負うものであり、控訴人主張の契約も右通運約款に基く運送取扱契約にほかならないところ、右約款第三三条には、「当店の責任は物品の引渡を受くべき者が留保しないで物品を受取り且つ運賃料金その他の費用を支払つたときは消滅する。但し物品に直ちに発見することのできない毀損若しくは一部滅失があつた場合において物品の引渡を受くべき者が引渡の日から二週間以内にその旨を当店に通告したときはこの限りでない。」と定められている。ところで控訴人主張の濡れ傷みや凍傷害は容易に発見することのできる毀損であつたが、荷受人は運送品である右馬鈴薯の毀損を運送取扱人に表示せずなんら留保をなさずに運送品を受取つて運送賃その他の費用を支払つたから被控訴人の責任は右約款に基き消滅したものである。

二、控訴人の答弁並に抗弁の要旨。

(一)  請求原因事実全部を認める。

(二)  抗弁として、被控訴人は運送取扱業者で委託者より委託された物品を自己の名をもつて運送業者である国有鉄道に運送を委託することを業とするものであるが、控訴人は、昭和二七年九月中、訴外大阪青果株式会社に対し、昭和二七年度北海道産馬鈴薯二五八六俵(一俵当り一四貫入りのもの)を代金は大阪到着時の市場価格によることとし、現品は昭和二七年一〇月末日迄に大阪市福島区下福島三丁目三八番地訴外会社本店宛に発送する旨の契約をなし、右約旨に基き控訴人から右訴外会社に対して送付すべき馬鈴薯を鉄道で輸送するため、被控訴人に対してその運送の取次を委託し、被控訴人は右運送取扱契約に基き、(1)昭和二七年一〇月二四日二五五俵、(2)同月二五日二五五俵、(3)同月二六日五五〇俵、(4)同月三〇日二八〇俵、(5)同年一一月四日二九〇俵、(6)同月五日二五〇俵、(7)同月七日二五五俵、(8)同月八日二五五俵、(9)同月一一日一九六俵と順次に発送したところ、

(イ)右(3)の五五〇俵は鉄道に委託して輸送中降雨による濡れ傷みを生じ、これがため引渡があつた日の到達地の価格によると金五十八万円であつたものが金三十七万八千六百五十円に価値を落し、その差額金二十万千三百五十円相当の損害を生じたから、被控訴人は商法第五六〇条により控訴人に対して右損害を賠償すべき義務があるものである。

(ロ)次に、前記(8)の二五五俵は、被控訴人が控訴人から運送品である馬鈴薯を受取り、これを貨車に積込むまでに野天にさらして置いたため凍傷害を受け、これがため引渡があつた日の到達地の価格によると金二十五万五千円あつたものが金十四万八千六百十円に価値を落し、その差額金十万六千三百九十円相当の損害を生じた。そこで被控訴人は商法第五六〇条により控訴人に対して右損害を賠償すべき義務がある。

よつて、控訴人は被控訴人に対して右(イ)及び(ロ)の損害賠償請求権を有するから、本訴において右(イ)の損害金二十万千三百五十円をもつて被控訴人主張の(一)の(1)の手形金十万円並に(一)の(2)の手形金十万円と順次に対当額において相殺し、右(ロ)の損害金十万六千三百九十円をもつて被控訴人主張の(一)の(3)の手形金六万二千六百二十八円並に(一)の(4)の手形金三万九千七百九十円と順次に対当額において相殺する。

(三)  被控訴人主張の再抗弁事実中、荷受人が馬鈴薯の毀損を運送取扱人に表示せずなんら留保をなさずに運送品を受取つたとの点を否認するが、その余の事実はこれを認める。荷受人は、被控訴人主張の運送賃等を支払つた際、運送取扱人に対して、前記損害発生の事実を告知し、その賠償責任を問うていたものである。

三、証拠関係。

被控訴代理人は、甲第一乃至第四号証を提出し、当審証人菅原勝蔵及び同中谷徳造の各証言を援用し、乙号各証の成立を認めると述べ、控訴代理人は、乙第一号証の一二、第二号証、第三号証の一、二、第四、五号証を提出し、当審証人高萩撤及び同井上金次の各証言並に当審における控訴人三ヶ田義夫本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

被控訴人主張の請求原因事実は当事者間に争いがない。

そこで、控訴人主張の相殺の抗弁について判断するに、被控訴人が控訴人主張のような営業をしていること、被控訴人と控訴人との間において、控訴人主張のような馬鈴薯輸送の運送取扱契約をなし、その約旨に基き、被控訴人が控訴人の主張する日、その主張の荷受人に対して、控訴人主張の数量の馬鈴薯を順次に各輸送したことは当事者間に争いなく、成立に争いのない乙第一号の一、二、当審における控訴人三ヶ田義夫本人尋問の結果並に弁論の全趣旨を綜合すれば、昭和二七年一〇月二六日発送の馬鈴薯五五〇俵は鉄道に委託して輸送中降雨により濡れ傷みを生じこれがため引渡があつた日の到達地の価格によると金五十八万円であつたものが金三十七万八千六百五十円に価値を落し、その差額金二十万千三百五十円相当の損害を生じた事実をうかがい知ることができる。しかしながら控訴人主張の輸送取扱契約が被控訴人主張の通運約款に基くこと、右通運約款第三三条には被控訴人主張の免責条項が定められていること並に荷受人が昭和二七年一〇月二六日に発送した前示馬鈴薯五五〇俵を受取つて運賃その他の費用を支払つたことは当事者間に争いなく、また、成立に争いのない乙第一号証の一、二、当審証人菅原勝蔵及び同中谷徳造の各証言並に弁論の全趣旨を綜合すれば、右五五〇俵の濡れ傷みは容易に発見することのできる毀損であつたが、荷受人は運送品である前示馬鈴薯の毀損を運送取扱人に表示せずなんら留保をなさずに運送品を受取つて右運送賃その他の費用を支払つたことが認められるのであつて、当審における控訴人三ヶ田義夫本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記各証拠に照らしてにわかに措信できないし、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。そうとすれば、被控訴人の責任は前示約款に基き消滅したものといわなければならない。それゆえ右損害賠償請求権を前提とする控訴人の相殺の抗弁は理由がないから、これを採用することができない。

なお、控訴人は、昭和二七年一一月八日託送した馬鈴薯二五五俵は、被控訴人がこれを貨車に積み込むまでは野天にさらして置いたため、凍傷害により金十万六千三百九十円相当の損害を受けた旨主張するが、当審における控訴人三ヶ田義夫本人尋問の結果中右主張にそう部分は、にわかにこれを措信することができないし、他に右事実を認めるに足る証拠がないからこの事実を前提とする相殺の抗弁もまた理由がないからこれを採用するわけにはいかない。

果して然らば、控訴人は被控訴人に対して本件約束手形金合計金三十万二千四百十八円及びそれぞれ満期後である被控訴人主張の(一)の(1)の手形金十万円に対しては昭和二八年七月一六日より、同(2)の手形金十万円に対しては同年八月一六日より同(3)の手形金六万二千六百二十八円に対しては同年一〇月九日より、同(4)の手形金三万九千七百九十円に対しては同年一〇月二四日より各完済に至るまで手形法所定年六分の利息を支払うべき義務あること当然である。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 臼居直道 裁判官 安久津武人 田中良二)

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